若手指導者対談 『指導者の役割とは』

鈴木 智大 / 北川 清宏

国際医療福祉大学病院/佐野厚生総合病院

国際医療福祉大学病院
脳神経内科  鈴木 智大 先生
 ○ 出身地:栃木県宇都宮市
 ○ 出身大学:秋田大学医学部医学科(2015年卒)
佐野厚生総合病院
消化器内科 北川 清宏 先生
 ○ 出身地:東京都
 ○ 出身大学:慶応義塾大学医学部(2016年卒)

2人の若手指導者が語り合った、
研修に臨むポイントや指導者としての苦労とやりがい、
そして栃木県で働く魅力について

指導する立場になって感じた、教えることの難しさ

鈴木先生…僕は現在卒後8年目で、初期研修医時代から国際医療福祉大学病院に勤務しており、現在は脳神経内科に所属しています。

北川先生…僕は現在卒後7年目で、佐野厚生総合病院の消化器内科に勤務しています。初期研修も佐野厚生総合病院で行い、3、4年目は千葉県の病院で研鑽を積み、5年目からは再び佐野厚生総合病院に戻ってきました。

鈴木先生…僕も北川先生も研修医や専攻医への教育に関わる機会も多いと思いますが、いかがですか?

北川先生…うちの消化器内科には4年目の先生がいるのですが、年齢が近いこともあり困ったときには真っ先に相談を受けることが多いですね。質問や相談に応えることはもちろん、空いている時間にカルテなどを見て、必要があれば軌道修正をしたりしています。指導や教育する立場になって感じたことは、自分ができるようになるよりも、人に教えることのほうがよほど難しいということです。

鈴木先生…それは僕もすごく感じています。研修医や専攻医の先生方は僕たちと年齢が近いこともあり、相談や質問される機会は指導医の先生よりも多いですよね。

北川先生…そうなんです。ですから、研修医や専攻医の先生方が常に不安なく医療に臨むことができるよう、いつでも気軽に質問や相談がしやすい、フレンドリーな関係づくりを意識しています。

鈴木先生…もの凄く大事なことですよね。いろんなことを聞けるのは初期研修医時代の特権でもあって、僕も研修医のときは今思うと恥ずかしいようなトンチンカンな質問を上の先生方にしていたと思うんです(笑)。それでも上の先生方は丁寧に優しく教えてくださり、とても嬉しかったですね。いまも上司に相談しやすいですし、難しい症例について一緒に考えたりしています。そうした環境づくりは指導をする上ですごく重要だと思います。

北川先生…うちの消化器内科の一番上の先生はERCP(胆膵内視鏡)にしろ、ESD(粘膜下層剥離術)にしろ手技がとても上手いですし、人間的にも尊敬できる素晴らしい先生で、僕も困ったときはよく質問しています。自分も、そうした何でも気兼ねなく質問や相談をされるような、人間的にも魅力ある医師になりたいと常に思っています。

鈴木先生…僕が指導をする上で難しいと感じているのは、初期研修医への指導です。うちの病院ではトータル6か月間の内科研修が必須で、研修医のほぼ全員が脳神経内科をローテーションしますが、脳神経内科に興味がなかったり、苦手意識をもっている先生もいるため、どこまで教えたらいいのか探り探り指導しています。ただし、Common disease である脳梗塞などは他科に進んでも触れる場面があるため、基礎的な臨床スキルはしっかり覚えてもらえるように指導しています。

北川先生…それぞれの研修医の先生で志望科や興味のある領域が違いますし、各々のモチベーションも異なるので難しいですよね。

鈴木先生…指導する立場になって初めてみえてきたことなので、自分も研修医のときは上の先生方から同じようにみられていたのかなと、今さらながらに反省してます。初期研修の2年間で将来の志望科が変わることも多々あるので、研修医のみなさんには診療科の興味あるなしではなく、フラットな気持ちで各科の研修に臨んでほしいですね。

北川先生…いろんな科を経験できるのは初期研修医時代にしかできない貴重なことですからね。初期研修で、たとえ興味のない診療科であっても前向きに経験しておくことは、医師としての土台を築くために大切なことだと思います。

鈴木先生…実際、他科志望の研修医の先生が脳神経内科をローテーションした際、1、2か月の限られた期間のなかでたくさん知識を吸収したいと、熱心に研修に取り組んでいた先生もいます。こちらとしても指導の甲斐がありますし、いろんな科をしっかり学ぶことは将来どの診療科に進むにしても必ず役立つはずです。

共に成長することで、栃木県の医療の活性化へ

北川先生…指導者の立場としては、質問に対して常に応えられるようにしておくことも重要で、そのためには自分自身のスキルアップも必要です。教える立場になってから、より多く勉強するようになりました。

鈴木先生…勉強しあって共に成長していくという感じですよね。質問されて気付かされることも多々ありますし、それって本当はどうなんだろうと調べ直したら、過去の常識が現在では違うということがわかったり。特に専攻医の先生からは専門性の高い鋭い質問が多いため、気付かされることや学ぶこともすごく多いなと感じています。

北川先生…それと、学ぶ意欲、意識の高い若い先生方がたくさん来てくれることで指導者として教え甲斐も生まれ、病院全体が活性化しますよね。勉強したい若い先生に多く来ていただくことが、病院、ひいては栃木県の医療が発展するために一番大事なことだと思っています。

鈴木先生…僕もそう実感しています。国際医療福祉大学に医学部ができたことで、医学生のみなさんがうちの病院に実習に来てくれるようになりました。若い人たちが来てくれることで病院も地域も活性化しています。栃木県には大きな病院が少ないこともあり、うちの病院には福島県や茨城県などの県境の地域からも多くの患者さんが訪れます。この病院を将来にわたって維持していくことは栃木県の医療を守る上でもすごく大事なことで、それには若い医師の力が必要だと感じています。

得られるスキルは幅広く、連携も密で働きやすい環境

北川先生……多くの若い先生方に栃木県で働くことに興味を持っていただくには“働きやすさ”をアピールすることも重要だと思
うんです。

鈴木先生…栃木県の土地柄なのか、うちの病院に研修に来てすごく感じたのはスタッフのみなさんがとても親切であたたかく、働きやすいということ。医師になって最初の1年目は何もできないんですよね。そうした不安のあるなか採血や点滴の仕方などを看護師さんから丁寧に教わったり、とても良くしていただいたことで医師として着実にできることが増えていきました。こうした環境のお陰で今の自分があると感じています。

北川先生…もちろん、研修医にとってたくさん経験できる環境も大切ですが、だからといってフォロー体制が万全ではなく、人間関係や雰囲気も悪く、心身が擦り減ってしまうような研修では全く意味がありませんよね。初期研修の大切な2年間を無理なく健康に働けることはとても重要なことだと思います。

鈴木先生…そうですよね。スキルアップに関していうと、うちの病院もそうですが、栃木県は医師数が少ないため、一人ひとりが経験できる症例数が多いことも特徴ですし、学会発表も若い先生たちにたくさん関わってもらえるように、初期研修1年目から経験できるようにしています。

北川先生…うちの病院でも学会や研究発表を積極的にしています。僕も初期研修医時代からたくさん発表してきましたし、一昨年、昨年とJDDW(日本消化器関連学会機構)主催の学会においてポスターセッションにるよ発表をしました。学会発表の予演会(リハーサル)などバックアップもしっかりしているので、多くの若い先生たちが積極的に学会発表を経験しています。

鈴木先生…臨床力はもちろん、アカデミックな力も獲得できますよね。

北川先生…それと診療科間や多職種間の密接な連携もうちの病院の特徴ですが、これは栃木県の医療の特徴でもあると思っています。先ほど鈴木先生がお話されていたように、栃木県は医師もそうですけども多職種の方々も親切で優しい人が多く、連携も密で仕事のしやすさも栃木県の大きな魅力。自分のやりたい医療に向かってのびのびと研鑽を積むことができますよね。

鈴木先生……うちの病院は急性期病院としては珍しくリハビリテーションスタッフが非常に多いことが特徴ですが、医師や看護師さんだけの視点では不足する部分を、リハビリテーションスタッフの方々が気付いてフォローしてくださったり、ソーシャルワーカーさんに転院について相談したり、手配をしていただいたりと、多職種の方々に非常に助けられています。

住環境や子育て環境も魅力、栃木県は研鑽に最適な場所

鈴木先生…栃木県は住環境としても子育て環境としてもいいですよね。

北川先生…うちの病院の位置する佐野市にはアウトレットモールがありますし、東京までのアクセスも良く、生活の利便性もいいです。程よい田舎感があって、とても住みやすいですし子育て環境としても抜群です。

鈴木先生…コロナ禍によって多くの学会や勉強会がリモートになっていますが、うちの病院からは平日の勤務終わりに、夕方からの東京の勉強会などに新幹線一本で行くことができます。地方だから最新情報に取り残されるということもインターネットの発展した現代の情報化社会では全くありません。研修するにも生活するにもすごくいい環境なので、若い先生方にはぜひ栃木県で研鑽を積んでほしいですよね。

北川先生…僕が研修医や専攻医の先生方によく言っているのは“患者さんの不利益になることは絶対にあってはならない”ということです。そのためには、自分にできないことをしっかり見極められることも重要。これは幅広い経験をしないとわからないことです。栃木県は医師数が少ないこともあって診療科間、多職種間の連携が密で、一人ひとりが経験できる症例も豊富。栃木県でなら早い時期から医師としての自覚と責任を実感しながら、患者さんの最善の利益に貢献できる幅広い臨床力を身につけることができるはずです。

鈴木先生…僕が指導する際によく言っているのは“患者さんをよく診る”ということ。採血や画像検査などの客観的なデータを重視するあまり、患者さんの診察が疎かになってしまっては正しい診断はできませんし、正しい治療に繋がりません。症状の原因を探るには医療面接や身体診察がすごく重要です。研修医のみなさんには、患者さんの話をよく聞き、丁寧な診察を心がけて研修に臨んでほしいと思います。

北川先生…栃木県はそうした医師へと成長できる、最高の研修環境にあると自信をもって言えます。

鈴木先生…本当にそう思います。共に成長し、若い力で栃木県の医療を盛り上げていけたら嬉しいですね。

パンフレット「医心伝心トチギ医ズム2022 vol.2」で見る。