スペシャルトーク
“キャリアも子育ても諦めない” 栃木県での働き方

佐藤 恵美 / 齋藤 敦子 / 竹田 幸代

獨協医科大学病院/佐野厚生総合病院/新小山市民病院

新小山市民病院
糖尿病・代謝内科 副部長(自治医科大学 内科学講座内分泌代謝学部門 臨床助教)
竹田 幸代 先生
佐野厚生総合病院
麻酔科・ペインクリニック 医員
齋藤 敦子 先生
獨協医科大学病院
小児科 レジデント(専攻医)
佐藤 恵美 先生

“キャリアも子育ても諦めない”
栃木県での働き方

なぜ栃木県の医師になったのか、それぞれのキャリアと育児事情

竹田先生…私は医学部に入るまでに紆余曲折があり、医師になったのが33歳のとき。学生時代にいい出会いがあり、年齢的に子どもを早くほしかったので、卒業後、直ぐに結婚しました。主人は埼玉県出身で小児科希望でしたので、出身地である埼玉に近い自治医科大学を選びました。自治医科大学には附属に「とちぎ子ども医療センター」があることや、長年のスーパーローテート方式による研修実績があったこと、さらに、当時、全国の大学病院でも数少なかった子育て支援が確立されていたこともあって、私も自治医科大学で初期研修をすることにしたんです。それが栃木県に来たきっかけですね。

齋藤先生…私も医師になるのが遅く、大学院で政治学を学んだ後に医師を目指しました。ずっと文系できたので数学が得意ではなく、日本の医学部受験は難しいと思い、英語を活かせる海外の医学部に進学したんです。現在勤務している佐野厚生総合病院には初期研修からお世話になっています。研修病院を選ぶ際は、子どもがいたこともあり時間に縛られてしまう電車通勤ではなく、実家のある埼玉から車で通える距離の病院を探していました。佐野厚生総合病院は研修医数が一学年6名と私にとって丁度良い人数でしたし、その他いろんな条件を加味して決めました。

佐藤先生…私は現在、獨協医科大学の小児科に勤務しています。出身大学も同じで初期研修からずっとお世話になってます。現在2歳の子どもがいますが、小児科医として働きだしたばかりでキャリアを中断したくはなかったですし、たくさん経験したいという強い思いがあり、頑張ってフルタイムで働いています。

齋藤先生…私の子どもは現在小学校1年生です。子どもの預け先に19時までに迎えに行く必要がありますが、18時過ぎに病院を出れば間に合います。麻酔科に勤務しており、手術が伸びることはほぼないので、私もフルタイムで勤務することができています。

竹田先生…私は小学生2人、中学生1人と子どもが3人います。現在勤務している新小山市民病院は自治医科大学の内分泌代謝科の医局派遣で、外来をメインに時短勤務をさせてもらっています。子ども3人のうち2人が重い喘息で交互に入退院を繰り返したりと大変な時期もありましたが、フルタイムから現在の外病院での時短勤務というように勤務スタイルを変えたり、主人が子育てや家のことをサポートしてくれるお陰で、キャリアを続けることができています。

佐藤先生…主人が外科医なのですが、当直はお互いバッティングしないよう私は火曜日と決め、主人はそれ以外に当直を入れるなどして、私が当直のときには子どもの送り迎えや世話をしてくれています。育児は2人でするのが当たり前かもしれませんが、主人が子育てを手伝ってくれているからこそ、私もフルタイムの勤務ができています。主人だけではなく、親、親戚、そして職場の方たちの理解とサポートがあってこそなので、いつも感謝の気持ちを忘れないようにしています。

キャリアを続ける大きなカギは、職場の理解とサポート

齋藤先生…職場での理解とサポートがあるかどうかも、仕事と子育てを両立していくためにとても大切ですよね。急に子どもの具合が悪くなり当直ができなくなったときに同期がフォローしてくれたり、初期研修で内科を回っていたときは上の先生から、「朝ちょっと遅く来ても大丈夫だよ」と言ってくださったり、そういうのがすごくありがたかったです。

佐藤先生…職場の理解はとても重要ですよね。当直は他の先生方は月に4、5回ですが私は子育てがあるので月に2回にしてもらっていますし、18時には上がらせていただいてます。子どもが保育園に行きだして半年くらいは、頻繁に風邪を引いて熱を出した時期もありましたが、その度に先生方が柔軟に対応してくださるなど、周りの理解とサポートがあったお陰で大変な時期も乗り越えられました。

竹田先生…私の場合は自治医科大学の設備環境にも助けられました。自治医科大学は病児保育がすごく充実しているので、子どもが病気になっても病児保育に預けて、直ぐに仕事に戻ることができましたし、喘息で入院した子どもが退院した後も、保育園ではなく病児保育で2週間ほど朝から晩までみてもらったりと、安心して仕事を続けられました。

齋藤先生…子どもの急病は不可抗力なので、そうした環境が整っていることはとても大きな安心ですよね。

佐藤先生…獨協医科大学病院の小児科の医局には、育児休暇を取っている男の先生もいますし、小さなお子さんが2人いながら、小児科のサブスペシャルティの専門資格も取り、フルタイムで働いていらっしゃる先生もいます。すごく尊敬しますし、身近に目標となる先生がいることでモチベーションにもなっていますね。

齋藤先生…子どもの急な病気で仕事を抜けることがあっても、誰も嫌な顔をせずにサポートしてくださったり、栃木県は人が優しくて、みんなで助け合い、支え合うという風土があるような気がします。レジデント1年目のときに栃木県外の外病院に勤務したことがあるのですが、栃木の雰囲気とは違って、研修医同士でもお互いの顔を知らなかったり、周りの先生方もギスギスしていたり。そのとき改めて栃木の雰囲気の良さ、働きやすさを実感しました

子どもは授かりもの、キャリアは後からついてくる

佐藤先生…私は卒後3年目という、医師としてたくさん勉強が必要な時期に出産したので、今、それを取り戻そうと、日々奮闘しているところです。出産のタイミングについては、医師としての経験年数をある程度重ねてからのほうが、仕事の土台ができているので復帰後が楽かもしれません。

竹田先生…私は医師になった年齢が遅かったこともあり、研修医のときに出産をするという選択をしました。医師になって5年位はいろんなことを学び、経験しなくてはいけない時期。そこに子育てが重なると、医師として置いていかれるのではないかと、焦ったり不安になることもありますよね。でも、子どもは授かりものなので希望通りのタイミングでできるものではないですし、そのときそのときで自分のキャリア形成に最善な道や答えを見つけていけばいいと思んです。

佐藤先生…そうですね。出産がいつのタイミングであっても、それによって進路やライフスタイルが変わったとしても、目標をしっかり持っていれば、職場や家族のサポートだけではなく、いろんな子育て支援制度を使ったり、シッター派遣などをやりくりしながらキャリアは続けられると思います。

齋藤先生…私は元々、循環器内科に興味がありましたが、オンコールがあるため子育てをしながら働くことが難しいと思い進路を悩んでいたところ、佐野厚生総合病院の初期研修では麻酔科もマストで回る必要があり、麻酔科を経験したことで自分のライフスタイルに合った進路を見つけることができました。全身管理の楽しさも知ることができ仕事のやりがいという部分でも麻酔科に進んで良かったと感じています。

佐藤先生…子育ては確かに大変ですが、みんなができることではありませんし、私の場合は小児科医としての“強み”になっています。一か月健診などでの親御さんからの質問に、自分の体験談を交えながら説得力のあるアドバイスを送ることができるようになったり、子どもの心情や親御さんの気持ちが理解できるようになるなど、子育てが診療に活かされています。

竹田先生…私の場合は当初、小児科医を目指していましたが、出産したことで子どもを心配する親御さんの気持ちがわかりすぎてしまい、冷静に診療ができないと感じたんです。手術のある科も子育てとの両立が厳しいと思い、外来診療での加療が大切となる内分泌代謝科に進みました。子育てをしながら、他の医師と同じスピードでキャリアを歩むのは難しいですが、時間はかかってもキャリアは後からついてきます。私も糖尿病専門医になるまで相当時間がかかっていますが、子育てがあったからこそ、糖尿病という興味ある分野を見つけることができました。子育てはキャリア形成にとって決してマイナスにはならないんです。

齋藤先生…それに、子育てをしているからこそ、子どもと共に自分も成長していくという楽しさも味わうことができますしね。

大切なのは医師としての、キャリアを諦めないこと

佐藤先生…最初の頃は子育てと仕事の両立が大変で、ストレスもありましたが、慣れてきたこともあり、今は特に感じていません。息抜きの時間を作ることが大事で、私の場合は美容院に行くことや、主人がいるときは子どもを寝かしつけてもらい一人の時間を作ったりと、生活や家の中でもオフを確保することが大切だと思います

竹田先生…私が子育てと仕事を両立する上で特に気をつけてきたのは体調管理です。最初の子どもを妊娠中にお腹が痛くなり、休ませてほしいと上の先生に言うと、「何かあったら責任が取れないし、一週間休んでいていいよ」と言われたんです。その先生の優しさだったのですが、ハッとしましたね。ほかの医師にも多大な迷惑をかけましたし、医師は元気でいなければいけないと改めて認識しました。次の日に万全で仕事をしたいので、疲れたらすぐに寝るようにしています。

齋藤先生…とても大事なことですよね。私は麻酔科なのでオン・オフがはっきりしており、休みの日は仕事のことを考えずリラックスして過ごすことができています。家で仕事の話は一切しないようにしていますし、休日はできるだけ家族と一緒に過ごすようにしています。

佐藤先生…女性医学生のみなさんに伝えたいのは、出産や子育てがあっても、キャリア形成には、どんな働き方でもいいので医師を続けることが大事だということ。栃木県は自然が豊かで子育て環境としてもいいですし、人が優しくて、職場の理解やフォローもしっかりあるので、自分の気持ち次第で何とかなるはずです。

齋藤先生…子どもができると自分に使える時間がとても少なくなります。独身時代を振り返って感じていることは、「時間を自由に使えることが、どれだけ貴重なことだったか」ということ。時間を有意義に使い、そのときにできることを全力で取り組んでほしいですね。

竹田先生…医学部に入り、医師になるまで相当な努力と頑張りがあるはず。それを無駄にしないためにも、出産や子育てによってキャリアを諦めないでほしいですね。そのための時短勤務や子育て支援がありますし、子どもの習い事の送迎や医療費の助成費用など栃木県や市、町の子育てサポートもあります。私もそうした制度を目一杯活用し、子育てを助けてもらいました。いろんな制度を良い意味でわがままに、欲張って活用し、キャリアを続けてください。栃木県でなら自分らしいキャリアを築くことができるはずです。

パンフレット「医心伝心トチギ医ズム2022 vol.1」で見る。